Story 2

初めて、「怖さ」を覚えた。

「コガネサンコウ」という馬に乗っていたとき、雷が鳴った。馬はビックリして少し跳ねた。初めての経験。普段おとなしい馬が跳ねるなんて、舞月にとってそれはもうビックリ。馬も暴れるということ。


それからは、乗る前に必ず指導員に「大丈夫? 怖くな〜い」と聞くようになった。


その「怖さ」にもかかわらず、白い馬に乗る目標は、舞月の中では消えていなかった。


まもなく5級というライセンスを取り、ひとつ前進した。

それから100頭近くいる馬の名前を覚え、細かい馬の動き(耳、目、口、鼻)など、どういう時にどういう動きをするのか、怒っているときや、何か欲しいときなどの動作を覚えては、よく母に話しをしていた。


もうその時には、馬という生き物に愛着を感じ、それはもう毎日人参をあげていた。


母は、人参代が大変と言っていた。


しかし、馬は何でも食べることを知り、スーパーに行っては、キャベツの表面の葉がゴミ袋に捨てられているのを見て、45リットルの袋いっぱいにキャベツの葉を入れて持ち帰ったという。


母は、恥ずかしかったと言っていた。


舞月は、サンタクロースのように、45リットルのゴミ袋のキャベツを担いで、100頭近くの馬すべてにあげ、いつも帰るのは夜の8時過ぎ。


馬に乗り終わってから、1頭1頭に話しかけ、キャベツをあげていたのでどうしても遅くなり、他のお客さんがいなくなり、母に急かされて家に帰った。


白い馬に乗る目標はまだ達成できていないけど、次のライセンスを取得してからと分かると、毎日乗った。

小学4年生の夏休み、何が何でも4級ライセンスを取りたいと目標を持った舞月は、夏休み中毎日、朝から夜まで馬に乗った。舞月にとって、友達と遊ぶより馬に乗っている方が良かったのでしょう。


毎日、1日に乗れる上限の6頭に乗っていた。


本人の気持ちとは裏腹に、身体はもう悲鳴をあげていた。下痢が続いてお腹が痛いと...


母や指導員に休むように言われたが、本人の気持ちは強く、「馬に行きたくない」と言ったことは一度も無かった。


夏休みの目標だった4級ライセンスを無事取得し、初めて白い馬に乗れた。

2年連続して「最多騎乗賞」という賞ももらった。年間で、400頭近くに乗った。その頃には、自分で全て、馬装から手入れまでしなければならなかった。


身長130cmぐらいしかない舞月にとって鞍は重く、母はよく鞍を乗せてあげたり、馬装を手伝っていた。


馬にとっては舞月は「ただのチビ」


馬鹿にされ、脚立に乗ってハミ(銜, くつわ)を付けようとすると馬は首を上げて「どうだ!! 届くかぁ〜!!」という顔をしていた。


そのたびに馬装が遅れ、最後には指導員に手伝ってもらい、いつも最後になり、レッスンの時間に遅れ、そのたびに母に叱られていた。


母は、他の人が15分かかる馬装であれば、舞月はその倍、30分で馬装をしなさい、と言い聞かせたこともあった。


それでも時間がかかり、しまいには「先生、できな〜い」「やって」と甘えることを覚えた。


母は指導員に「どんなに時間がかかっても、レッスンに出られなくても良いから手伝わないでください」と言った。


さらに舞月には、レッスンに1分遅れる毎に「漢字を100個書きなさい」と。


2分遅れれば200個。結局1,000個以上の漢字を書いたこともあった。


馬は可愛いけど、一筋縄ではいかないということを、子供なりの頭で感じたと思う。